「桜の花びらが落ちる速度は、秒速5センチメートルだそうだ」 「へえ」 「と、小野田が言ってた」 「物知りだな」 「アニメなんだそうだ」 「そういや主題歌になったか」 「主題歌?」 「あー誰だっけな…、まぁいいや」 「秒速5センチは遅いような気がする」 「もうちょっと落ちそうだな」 「50センチぐらいは」 「横にひらひらしてんじゃない?」 「これは何センチか知ってるか?」 「これか……」 「……」 「……」 「カンニングしてる」 「興味出たんだよ。──“牡丹雪の落下速度が秒速0.3~0.8メートルだそうです”」 「30センチ?」 「から80センチな」 「もっと速く感じる」 「まあ、見え方が違うからな……」 寝転がって屋上で、積もり始める雪を空に見ている。 降りそそぐ、明るい空を背景にすると雪は灰色。 音もなく迫ってくる速さは意外にも、秒速1メートルもなく時速だと約3キロ。 そんな遅さじゃない。 自転車ぐらいにもっと速度を感じる。 腕を上げると純太の頭があって、冷たい耳と髪にちょうど触れた。 「帰ろう」 「寒い?」 「冷たくなってる」 「じゃあ温めといて」 「風邪ひく」 起きて視界におじゃました。 「あ、……青八木も鼻赤い」 「帰ろう」 「……しょうがねえな」 下から首に腕がかかって、こっちは片手で支えてただけだから、 危うく純太に落ちるところだった。 重なった口唇の先は熱い舌。 もう風邪を引いてたようだ。 |