『口溶け』

 


夜中はたと目を覚ますと向かい合った顔もこちらを見ていた。驚きすぎてそのまま声も出さずに、一度目を見張って後はただ見つめた。青八木も驚いた瞬間は分かったが、やはり同じように何も言わずに視線を交わしたまま。どうしようか迷って、なぜか少しだけ頭を寄せた。近くが良い。近く。もっと近く。もっと。

気付くと口唇同士を触れ合わせ、軽く吐く息を感じながらわずかに寄って蓋をした。

真夜中の不思議。心地良さ。合わせてしばらく動かずに、お互いなぜかこれ以上ないほど落ち着いていた。鼻で呼吸して息を合わせる。俺たちには何でもない、当たり前のようにできること。それがこんな場面でもすうすうと、重なり合った音が聞こえる。

好き。言葉の代わりに舌を差し出した。受け取った青八木はそこに重ね、ふっくらとした温かい舌が触れ合った。ん、と軽く吸われて、通じたと思った。好き。

とろりと柔らかい口溶けの、舌は緊張をしていない。だからだ、こいつは俺のこと信頼して尚且つ触れ合わせることまでしてくるのだからと、好きの証明がなされた。

そこまで近付いてるのに、粘膜が触れないと分からないこともある。好きと返ってきた信号が脳に届いたら幸せになった。

見つめ合っても、手を合わせても、俺たちの場合はまだ分からない。呼吸を合わせても、寄って体を近付けてもまだいつものことだから、これぐらいやらないと本当には俺たちは。














 

20161128
青手ワンドロお題を借りました。気付いた時には終わってて、なんかちゅっちゅええなーと思って書いたら、話的に20分ぐらいで終わってしまいました。