『大事な言葉』 ※イチャイチャしてるだけです

 


 大好きな人がいて笑いかけてくれる。それがあるだけでもう世界は最高だ。
 隣にいて、手を繋ぐ。
 本当それだけでいいんだ。

 絡めた指を少しニギニギと、顔見たらもう分かってると微笑んでる。
 かわいい。こういうふうに思うようになるとは思わなかった。
 惚れたら、こうなるんだな。
 恋は盲目。周りが見えなくなって、その人しか見えない。

 どちらかというと、こいつの方がそうだったのに、今じゃあこんな。
 俺は相変わらず、ハマるとずっとそれだな。
 単純バカ。最初からこいつにハマってた。

 川べり。シートに腰掛けて、手を繋いでる。

「――なあ、何か優しいこと言って?」
「優しい……」
「すっげぇ気分良いんだ。落ち着いちゃってるからさあ、なんていうの? 大げさなことは要らないんだ今」

 重なった下から指の腹をくすぐる。つまんだり、指先まとめて握られたりしながら。

「黙っててもいいんだけど、ちょっとナニカ欲しいかなー……」
 フッと笑う。少し呆れてるのと「かわいい」と思ってるのが混じるやつ。それが嬉しそうだから、俺もその顔見るの好き。
「あ、もういい。満足」
「え、まだ何も」
「さっきの笑い声で十分だ」

 青八木が笑いを噛みながら、簡単すぎるってつぶやいた。

「あぁ、俺はどうやら、すっげー単純みたいよ? 惚れた弱みなんだろうなぁ……、お前しか見えてねえぐらい単純」
「……いつのまにそんなに」
「会った時からじゃねーかな。だってさあ俺、いつもお前呼びすぎてて、たまに居ないのに無意識に青八木ぃって」
 いねーんだったわって焦ったこと、めちゃくちゃあった。皆によく突っ込まれた。いねえよ! ってのがいつものこと。

「俺の方が後なのか、先だと思ってた」
「うーん……、言ってきたのはお前。俺は自分で気付いていなかった」
 好きって言ってくれたから気付けたんだ。
「お前も知ってるよな、俺はハマったらとことんな人間だって。実は諦めが悪い、縋り付く……」
 真面目な顔して聞いてる。分かってんの? 今、口説いてんだよ?
 お前が嫌だって言っても、離れられそうにないって……、自分の馬鹿さ加減に呆れてる、我ながら。

 言葉が続かなくなって、青八木が握りを替えて手を持ち上げた。
 縋り付く、で止まってんだから察するのも簡単か。
 分かりやすくていいだろ?

 自嘲すると手の甲にキスされた。変に格好つけるようなことを照れもせずにする。これにもすっかり慣れてしまった。
 こっちも何も言わずにその手をついて、横から被るように口を奪う。
 ほんの軽く。少しだけキスした。
 ちょっとドキドキするけど、おちつく。安心する。
 今、誓ってくれたから。

 心地よく打つ幸せの音。同じ回数だけ鳴って、同じ時に死ねたら。俺たちはチームだからきっとそうなれる。

「なあ、俺、離れられないって思ったけど、もしかして」
「同じだ」
 息ぴったり。割り込んで来て言葉を奪った。大事なことは感覚で知ってる、最高な奴。

「妙に甘えてくるけどどうした?」
「恋人に甘えちゃいけない?」

 甘えついでにひざ枕を奪う。さすがにかてーんだけど。
 収まりやすいように脚を組み替えたから、押し付けてしっかりと頭を乗せた。
 足首が見えるから指で撫でる。

「純太」

 話しかける時に名前を呼ぶのは、話すことを決めてから呼びかけるから。なあ、ってな具合に、考えながらじゃなく言葉を確定させる。

「すごく幸せだ」

 見えない角度で、くっと笑ってしまう。そりゃあよかった。
 大好きと言うのは伝えたいこと。幸せだと言うのは受け取ってると知らせること。
 俺も、って言ったらもう定番すぎて腐るぐらいな恋人同士の戯れ言。だって正しくその通りだ。間違いなく。

「俺もだよ」
 定番に少し気恥ずかしくて、呟くように言った。
 どうなんだか、雑に頭を撫でてきた。さすがに照れた?

 幸せで大好きで優しくて嬉しい。
 嬉しい、これも、受け取っている言葉。

 多分これらは、愛してるよりも大事な言葉。




end.











 

20160716